学ぶ · 礼儀
将棋の作法。
どれも規則には書かれていませんが、どれも実際に守られています。将棋には、囲いを覚えるより先に身につく作法があり、それを知らないまま来た人は悪気なく失礼にあたることをしてしまいます。覚えるのに一分もかかりません。
対局のあいさつ
一局は二つのことばで挟まれます。どちらも軽く頭を下げながら、盤にではなく相手に向かって言います。
欧米の「good luck」のように、言っても言わなくてもよい社交辞令ではありません。省くと、差し出された手を握らなかったように受け取られます。
対局の終わり方
チェスの習慣といちばん大きく違うところで、知っておく価値もいちばん高い作法です。
負けは自分で告げます。将棋は詰みまで指し切らないのがふつうで、形勢が決まったと見えたら「負けました」と言って右手を盤に置くか、一礼します。勝ち目のない局面で相手の間違いを待って指し続けるのはよい作法とはされません。決着のついた将棋に相手の時間を使わせることになるからです。
逆の立場も同じです。投了しようとしている相手を、わざわざ詰ますことはしません。投了までに時間がかかったことに触れるのも同じです。形勢は双方が正直に読むものとされています。
握手も「good game」のやりとりもありません。一礼とことばだけで終わります。
駒の扱い
- 置く。滑らせない。駒は人差し指と中指ではさんで持ち上げ、升目にぱちりと打ちつけます。あの音も指し方のうちです。
- 片手で。利き手だけで指し、考えている間に盤の上で手を迷わせません。
- 待ったはしません。気軽な対局では取り決めにすぎませんが、大会では指が駒を離れた時点で着手が成立します。
- 考えながら持ち駒を並べ替えません。取った駒は右手側の駒台に、表を上にして相手から見えるように置きます。伏せたり、重ねて数をわかりにくくしたりするのは認められません。相手には、こちらが何を持っているかを正確に見る権利があります。
駒の並べ方と、先後の決め方
始まりには二つの作法があります。
駒を並べる順番が決まっています。大橋流と伊藤流の二つが伝えられていて、どちらも玉から始めて外側へ順に並べていきます。験担ぎというより、数えずに二十枚そろっていることを確かめる手順です。
- 玉を定位置に、次に金二枚、銀二枚、桂馬、香車。
- 角行と飛車。
- 歩兵を三段目に、左から右へ。
先後は振り駒で決めます。上位者側の歩を五枚手に取って振り、盤に落とします。歩の面が「と」の面より多ければその人が先手、少なければ後手です。駒落ちでは振り駒をせず、上手が必ず後手に回って駒を落とします。
対局のあとに残るもの、感想戦
将棋をいちばんよく表しているのは、終わったあとの時間かもしれません。両者が盤の前に残り、初手から声に出して並べ直します。感想戦です。勝った側は何を怖がっていたかを話し、負けた側はどこで悪くしたかを尋ねます。反省会というより稽古の後半で、タイトル戦のあとはプロも中継の前でこれをやります。
結果が出たあとにメニューへ戻さず、指していた盤にそのまま残るようにしてあるのはこのためです。
ネット将棋では、だれも見ていない
作法はなくなるのではなく、形を変えて残ります。
- 切れ負けを待たせず、投了する。負けた将棋を放り出して時間切れまで相手を待たせるのは、黙って盤の前から立ち去るのと同じです。
- 勝っている局面で引き延ばさない。詰みがあるのに相手の時間だけを削るのはやめましょう。
- あいさつは書けば済みます。日本のサーバーでは今でも、対局前に「よろしくお願いします」、終局後に「ありがとうございました」が流れます。
- 負けは静かに受け入れる。そのまま変わらずに残っている唯一のものです。
結果が出ても、盤はそのまま。
どの対局も、指していたその盤での感想戦で終わります。盤を残してあるのはそのためです。